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T.ARAKAWA

(424)254-8823

ある少年の話

無表情で俯きながらカウンセリングルームに入ってきたその少年は、「こんな所にはいたくない」という雰囲気をあからさまに醸し出しいていた。それを裏付けるかのように、長い沈黙の後にその少年が発した最初の言葉が「あと何分で終わるんですか?」その表情と声のトーンには敵意が満ち溢れていた。

ほとんどの場合、こういった反抗的態度というのは、カウンセラーが何か悪いことをしたからではなく、親に対して、そしてもっと大きく言えば大人に対しての憎しみや悲しみの表れであることが多い。ただでさえ毎日親にグチグチ言われる事で縛られ続けているクライアントにとって、「あと何分で終わるんですか?」という質問は「あと何分で親が決めたこのカウンセリングという縛りから逃れられるんですか?」という質問と同義である。それを「あと〇〇分で終わるよ」という反応をしてしまうと、事実だけを伝えているように聞こえて、少年は「カウンセラーも親の味方」という理解をさせてしまいかねない。

「ここにいるのが嫌なんだね。」 僕は声と表情で彼の敵意に理解を示し、嫌なのにそれでも来てくれたことへの感謝の意もこめる。このような反応を何回も示していく事で少年はカウンセリングに毎週来ることに同意をしてくれた。

少年の人生は10代にしてすでに波乱万丈だった。何度も何度も引っ越しを繰り返し、友人と呼べるような関係を作り出せたことはなかった。また、親が厳しすぎるのと学校では良い先生に恵まれなかった結果、信頼できる大人に出会った事が今まで一度もなかった。

孤独だった。学校でも家庭でも問題行動を起こし続け、退学直前まで追い込まれ、もう親だけでは手に負えないとなった時に、僕に電話がきた。
彼とのセッションは決して簡単なものではなかった。毎週来てくれるのは良いが、信頼されているわけではない。何を聞いても、何を言ってもだんまりを繰り返すというセッションが何回も何回も続いた。

この流れを変えたのは、普通カウンセリングではあまりしない手法だった。それは、自分の話をする事。しかも、少しではなく、かなり。

彼の今までの人生のテーマは孤独。それにどう寄り添えるか、そして寄り添っていると感じてくれるかが勝負だった。しかし、信頼しあう人間関係を今まで誰とも構築することができなかった彼にとって、1週間に1度、50分も誰かと話さなくてはいけないという事はかなりの苦痛であり、そんな彼が誰かを信頼してくれるには、僕が敵でないという事を示さなくてはいけなかった。

少年の親から話を聞いていたので、ある程度はわかっていた。彼の苦しみは僕の10代の時の苦しみと酷似していた。孤独。誰にも受け入れてもらえない絶望。将来への不安。自分が何者なのかわからない苦しみ。

僕は必至になって自分も同じ経験をしてきたのだと話し始めた。
僕の親も非常に厳しかったこと。
学校でも家でも孤独を感じ続けていた事。
先生から体罰を受けたこと。
いじめられたこと。
高校を辞めた後の将来への絶望と不安。

最初は僕の話など聞く耳を持たなかった少年も少しずつ、本当に少しずつだけど顔をあげて聞いてくれるようになり、いつのまにか自分の話もしてくれるようになっていった。やっと信頼してくれ始めた。

一度話し始めてくれると早かった。きっと話を聞いてもらう事に飢えていたのだろう。今までの苦しかった経験の全てが津波のように僕に襲い掛かり、僕はそれを否定するわけでもなくとにかく受け止めてあげる事に従事した。ずっと誰にも話せずに耐え続けた結果、体の中の膿となってしまっていた全てのネガティブな感情を、少しずつ少しずつ一緒に体の外に出していった。慎重に、しかし大胆に。時には涙が止まらない時もあるほどに。

一人の大人を信頼できる。世界で自分は独りぼっちではない。この理解と気づきは非常に強力で、これをきっかけに少しずつではあるが学校でも友達ができ始め、成績も向上していき退学どころか無事卒業できるまでになった。カウンセリング最初の日に見せていたあの下を見続けてた彼の視線は、いつのまにか前を向けるまでになっていた。

そんな彼からこの前数年ぶりに連絡がきた。 多くの感謝の言葉と共に、将来やりたい事が見つかって今はそれに邁進している事、初めての彼女ができて幸せである事などが写真と共に送られてきた。カウンセリング卒業時と同じように前を向いて映っているその写真の彼に、孤独や絶望という言葉は全く似つかわしくなくなっていた。




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