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カリフォルニア州公認カウンセラーのブログ

長年に渡る経験に基づく意見や
メンタルヘルスについて日々考えることを綴ります。

甲羅




「またここにごみが落ちているじゃないか!!!何回言えばわかるんだ!!!君は働いていないのだから、育児と家事を完璧にやるのが君の仕事だろう?!?!」

また始まった。いつもの怒鳴り声で、いつもの鬼の形相で。その度に私は亀のように手足も顔も甲羅に入れて閉じこもり、どんな大波にも嵐ですらもひたすら、ただひたすら耐え続け、この地獄のような時間が過ぎ去るのを待つことしかできない。
無力感。何をやっても否定される。
虚無感。いったい私は何のために生きているのだろう。
完璧にしてほしいならロボットでもいいのではないか。
絶望感。いったいいつまで私は罵倒され続けるのだろう。
もう嫌だ。でもどうすればいいのかわからない。

そういえば、こんな状態はもう何年続いているのだろう。
付き合っている時はこんな人じゃなかった。結婚当初だって仕事は忙しかったけどまだ優しかったのに。いったいいつから鬼と化してしまったのだろう。

「どうしてママはいつも泣いているの?」

子どもに聞かれた事がきっかけだった。
子どもの前では気丈に振る舞えていると思っていたが、気づかぬうちに子どもの前でも何度も何度も泣いてしまっていた。
なんとかしなくては。
必死の思いでインターネットで調べつくし、良さそうな心理カウンセラーの先生を探し当てた。
なかなか踏ん切りがつかず、結局連絡をするのに数か月かかってしまった。
荒川龍也カウンセリングルーム。

ドキドキしながら待つ。いったいどんな人なのだろう。どういう事を聞かれるのだろう。
そうこうしているうちに扉が開いて心理カウンセラーの先生が出てきた。
写真を見て何となくわかっていたけど、私より若い人がどんなアドバイスをしてくれるのだろうか。
そもそも男性なのに私の事をわかってくれるのだろうか。 不安ばかりが募る中、カウンセリングのルール等が説明され書類にサインをし、30分くらいしてからやっと本題に入っていった。

「なぜカウンセリングを受けようと思ったんですか?」

その質問一つで、たくさんの事を思い出した。
自分は今幸せではない事。
でもどうすればいいかわからない事。
子どもにこれ以上私が落ち込んでいる所を見せたくない事。
思い出して、涙が止まらなかった。
今まで抑えてきた感情。
巨大なツボにしまい込み、見ないようにしてきた多くの感情と悪夢のような出来事。
それらすべてが溢れ出していった。

「辛かったですね。今まで40年以上もずっと我慢されてきたんですね。」

思い返してみれば私は小さいころから我慢しかしてこなかった。
姉とケンカをすれば必ず私のせいにされていた。
私は何をしても否定され、何をしても認められず、何をしても怒られ続けた。

「自分だけが我慢していれば全て物事がうまくいくと頻繁におっしゃいますけど、娘さんが同じような状況にいた場合、我慢しろと言えますか?」

あぁ、このカウンセラー先生は相変わらず辛いけど心に来ることを言うなぁ。
言うわけないじゃない、自分よりも大切な娘に、こんな苦しい思いなんかしてほしくない。
もし娘がこんな思いをしていたら、即座にそこから逃げなさいっていうに決まってるじゃない。
でも、なぜそんな簡単なことが自分ではできないんだろう。

変わりたくない自分がいた。
変化を起こした後の世界に飛び込むのが怖かった。
逃げたところで生活できるのだろうか。
そもそも子どもはどうなるのだろうか。
片親では子どもは幸せになれないのではないだろうか。
わからないことが多すぎて、不安な事が多すぎて、飛び込む気にはなれなかった。
相変わらず、私は甲羅の中に手足も顔も入れたままだった。

「女手一つでどうやって子ども二人も育てていけるんだ?!馬鹿な事を言うんじゃない!?」「どんな辛いことでも我慢していれば良い事があるから、がんばって。」

わかってはいたけど、自分がこんなに困っているのに親は相変わらず全く手を差し伸べてくれようとしなかった。あぁ、そうだ。思い出した。まただ。あの母親の冷たい目。あの父親の、私の事はどうでもいいという態度。あの時、幼かった私は悟らざるを得なかったのだ。私はこの世界にいてもいなくてもどっちでもいい存在なのだと。家族から愛を得られなくて、どうして他人から愛を得られる?幼い時に、私は愛されない存在なのだとわかってしまったのだ。

この無力感は、子どもの時に両親に手を握ってもらえなかった感覚と一緒。
この虚無感は、子どもの時に両親と姉が楽しそうにしている所をただただ眺めることしかできなかったあの感情。
そして、この絶望感は私の人生はこうやって終わっていってしまうのだろうと悟ってしまった時のあの感覚。

「ママ、ママが泣かないように、ママがハッピーになるには、僕はどうすればいいの?」

泣きながら息子に言われた言葉でハッとした。
生れた時からこの子達が私の希望だった。
生きる意味など分からないまま、いつの間にか大人になってしまった私に、生きる意味をくれた。この子達のためにならなんだってできる、そう思う事で生まれてくる力。
彼らが笑ってくれれば満たされ、彼らの将来を考えれば生まれてくる希望。
この子達が私の全て。

「子どもの時のあなたは何もできなかった、でもそれは子どもだからしょうがなかったんです。でも今は違う。あなたは大人になった。子どもの時に自分を守るために仕方なく諦めた多くの選択肢を、今は選んでもいいんですよ。」

気づいてからの私の行動は早かった。
荷物をまとめながら、自然と涙が出てきた。今まで数えきれないほど言われた酷い事、された悪行の数々。その全てを一つ一つ思い出した。忘れることなんてできない。しかし、忘れなくていい。先生に言われた通り、この悲しみすらも受け止め向き合う事で前に進めるのだ。引き止められる様子など微塵もなかった。案外あっさりしているものだな。他にも心配していた多くの事は本当に杞憂に終わりそうだ。これも先生が言っていた通り。

40年以上もの間ずっと甲羅に隠していた手足と顔を、ほんの少しだけ恐る恐る出してみた。
外の世界は眩しすぎて、また甲羅に戻ってしまいそうな自分を奮い立たせながら、ゆっくりと這いつくばり始めた。


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